2013年1月25日金曜日

電子書籍&紙書籍 出版点数② ミクロ編

※:ここで用いてるデータのより詳細なものが、「電子書籍&紙書籍 出版点数③ ミクロ編 補遺 生データもあるでよ」と題して、別のエントリーに上がっています。
  そちらもご覧ください。


 こんにちは。

 予告しましたとおり、紙書籍販売数を使って、電子書籍配信数を見るシリーズの2回目になります。
 前回は、紙書籍の販売数から、どのような出版社が電子書籍を出しているのかを見ました。
 今回は、個別の出版社について、どこが多いとかどこが少ないという話を見てみようと思います。

 ということで、前回と同じように、紙書籍の販売数(amazon.co.jpでの新品販売数)と電子書籍配信数を比較します。

出版社規模の割に電子書籍を出していない出版社


 …ということで、まずは、「紙書籍をたくさん販売しているのに、電子書籍をあまり配信していないのは出版社はどこか」を見てみようと思います。
 紙書籍販売数の多い出版社上位30社を順に並べてみます。





 調査方法については、最後に記します。
 「電子化率」は、電子書籍配信数を紙書籍販売数で割ったものです。
 
 このリストから、「電子化率10%未満」を基準に、電子書籍配信がなされていない出版社を上げると、以下の通りです(紙書籍販売数順)。各出版社の簡単な説明を加えました。

  • 文芸社(15,541冊、1.2%)
    • 「通常の商業出版のほか、著者が出版費用を負担するタイプの流通出版、自費出版(いわゆる私家本の発行)を手がける」(Wikipediaより)
    • 「血液型別 自分の説明書」シリーズ、山田悠介「種のキモチ」など。
  • 岩波書店(9,462冊、2.1%)
    • 広辞苑、岩波新書、岩波少年文庫など。
  • ポプラ社(6,453冊、0.2%)
    • 「ズッコケ三人組シリーズ」、「かいけつゾロリシリーズ」、子供向け百科辞典「ポプラディア」など
    • 2010年、齋藤智裕(水嶋ヒロ)「KAGEROU」を出版して話題に。
  • 河出書房新社(5,796冊、4.4%)
    • 「文藝」、河出文庫、ふくろうの本など。
  • エンターブレイン(5,092冊、6.6%)
    • 角川グループの1社。雑誌・ゲーム攻略本などが主力。
    • 最近では「テルマエ・ロマエ」がヒット。
  • 協同出版(4,460冊、0.0%)
    • 公式HP曰く「教員採用試験、公務員試験、福祉資格の協同出版社」。
  • 平凡社(4,214冊、0.2%)
    • 「世界大百科事典」、「別冊太陽」、東洋文庫など。
  • 新風舎(4,096冊、0.0%。リンク先はWikipedia)
    • 自費出版を行っていた会社。2008年1月に破綻。
    • amazon.co.jpで、まだ購入可能というのがビックリ。
  • 明治図書出版(4,028冊、0.0%)
    • 教育書,教育雑誌,学習教材を中心に扱っている出版社。
  • 筑摩書房(3,869冊、1.8%)
    • ちくま文庫、ちくま新書、ちくま学芸文庫など。
  • 中央経済社(3,851冊、0.4%)
    • 公式HP曰く「経済、経営、法律、会計、税務、その他社会科学全般に関する専門書籍、雑誌を発行している出版社」

 こうしてみると、専門書系の出版社自費出版の出版社が多いことがわかります。
 また、エンターブレインなど、雑誌が多い出版社も含まれています。
 このあたりは、仕方がないのかも知れません。

 それを除くと、岩波書店、ポプラ社、河出書房新社、平凡社、筑摩書房あたりが、電子書籍化に積極的でない出版社ということになるでしょうか。

 もちろん、各出版社ごとに、コンテンツの個性があるという側面もあります。
 たとえば、ポプラ社は児童書が多いので、現在の電子書籍ユーザー層を考えたら、電子書籍化が遅れるのも仕方がない部分もあるかも知れません。
 (でも、児童書って、電子書籍化すれば、大人も買うと思うんですよね。子供の頃に読んだ児童書って「店頭で買うのは微妙(そもそも児童書コーナーに行かない)で、本棚に並べたいとは思わないけど、たまに読みたくなることがある本」なので、結構、電子書籍むけではないかと。ポプラ社で言ったら、「ズッコケ三人組」が出たら、僕は、大人買いします)

 それ以外は、比較的、「お堅い」出版社が多い印象でしょうか。
 このあたり、読者層と電子書籍ユーザーがかぶらないということはないと思うのですが…。

 といったあたりで、いろいろ、読みたいものはあるので、これらの出版社さんにも、もっと電子書籍の配信をして欲しいなと思います。

【追記(2013/01/25 21:33)】
 Google+の「電子書籍Lovers」コミュニティでツッコミをいただきましたが、
 平凡社は、ebookjapanにおいて838冊を配信しており、「配信が少ない」という表現は適切ではなかったかも知れません。
 今回の調査法では、「各出版社の最大値と最小値を抜いて平均を取る」ということをしています。
 これは、「電子書籍ユーザーの最大多数の最大幸福」という発想で採用したのですが、「電子書籍に対するやる気」という観点から言うと、必ずしも適切ではなかったかも知れません。
 「1ストアで大量に配信している」という同じ事情で、上の表で大幅に過小評価しているのは、、エンターブレイン(Bookwalkerにて754冊配信)、筑摩書房(hontoで563冊、紀伊國屋で355冊配信)などがあります。

電子書籍を出している出版社

 つづいて、電子書籍をある程度配信している出版社の中での積極性の差を見てみたいと思います。



 もっとも多くの書籍を出している出版社は、紙・電子ともに講談社で、電子化率は約30%です。
 フェアなども積極的に行っており、電子書籍市場を引っ張っている存在だと思います。

 その次に電子書籍配信数が多いのは小学館ですが、こちらは、電子化率は、比較的低い(約19%)です。それでも、持っているコンテンツが多いために2位になっている形です。同じ一ツ橋グループの集英社も同様で、電子化率約15%ながら、電子書籍配信数では4位になっています。同グループの白泉社も17%と電子化率は低めです。ただ、3社とも、ここ最近は、コミックを中心に配信が増えてきているようなので、今後に大いに期待したいと思います。

 グループという観点で見ると、角川グループは、メディアファクトリー(約32%)・富士見書房(約37%)は高めですが、角川書店(約20%)、アスキー・メディアワークス(約10%)、上で述べたエンターブレイン(6.6%)は、それほど高くありません。電子書籍ストアBookwalkerを自社で運営するなど、電子書籍に積極的な角川グループですが、メディアファクトリー・富士見書房以外は比較的低めというデータになりました。Bookwalkerはコミック・ライトノベルを中心に販売しているため、それ以外の書籍については、それほど電子書籍化率が高くはないのかも知れません。


 この上位30社を電子化率で並べかえてみます。



 個人的な印象としては、電子化率30%前後の出版社は「比較的、電子書籍に積極的な出版社」と言えるような気がします。
 もちろん、それが満足すべき数字だとは思いませんが、現状においては、「今は、これが精一杯」といったところなのでしょう。

 この表で言うと、富士見書房、扶桑社、PHP研究所、少年画報社、メディアファクトリー、イースト・プレス、講談社、秋田書店、中央公論新社、実業之日本社、徳間書店、双葉社、ソフトバンククリエイティブあたりが、30%前後の数字になっています。
 コミックを多く出している会社が、比較的、多めなのかな?…という印象はあります。

 逆に、それより高い3社は、なんらかの特殊事情がありそうです。
 ゴマブックスは、ケータイ小説を多く配信しています。短く別れているので数が多くなります。そのため、数字上、紙書籍販売数よりも多くの電子書籍を配信しています。参考までに、最も配信数が多かったReader Storeでの検索結果は、こうなっています。
 モバイルメディアリサーチは、公式HPにも「コミックや小説の書き下ろしを中心に電子書籍を 企画•編集、販売する電子出版レーベルです」とあるように、電子書籍の配信に特化した企業のようで、紙書籍の方が「おまけ」と言ってもいいかもしれません。50円などの短いものが多く、内容的には、エロいものが多いようです。最も配信数が多かったhontoの検索結果へのリンクを示します(※セーフサーチをオンにしてこれです)。
 ハーレクインは、このブログでは、比較的、語るのを避けてきたのですが(汗)、非常に多くの出版物を電子配信しています。ここは、上で述べた2社と違い、紙書籍と同じ価格帯のモノを中心に売っているようです(安いモノもあります)。ある意味、もっとも電子書籍に積極的な出版社と言えるでしょう。
 
 その他の出版社については、表の通りです。
 この表の中で、比較的、下の順位にあったとしても、あくまでも「多く配信している出版社の中で」の結果ですので、悪く言えるものではないと思います。

まとめ


  • 岩波書店、ポプラ社、河出書房新社、平凡社、筑摩書房あたりが、現状、電子書籍に対して、消極的。
  • 一部の例外を除くと、基本的には、電子書籍化率30%台が上限になっている。
    この数字は、絶対値としては、決して満足できるものではないと思う。
  • ただし、ハーレクインは、まっとうに高い。
  • 講談社は、電子書籍化率という指標で見ても、30%と高く、間違いなく、電子書籍をリードしている。
  • 小学館・集英社・白泉社は、今後に期待。
以上。

付記:調査方法

 今回用いたデータの調査方法は以下の通りです。

  • 対象は、amazon.co.jpの出版社リストに載っていた1502社です。
  • 紙書籍販売数は、amazon.co.jpで新品として購入可能な販売数を調べました。
    上記出版社リストのリンク先で、「コンディション:新品」を選んだ際のヒット数です。
  • 電子書籍販売数は、電子書籍ストア7カ所を調べ、最大値と最小値を除いた平均を取りました。
    これは、あるストアで「1話」単位で販売している出版社の影響を除くためです。
    この手法は、前回のエントリーでは使っていないため、結果の数字が微妙に異なっています。
  • 具体的な電子書籍ストア名は、以下の通りです。
    • honto
    • Reader Store
    • GALAPAGOS STORE
    • 紀伊國屋書店
    • ebookjapan
    • Kindle
    • Kobo
  • 「電子化率」は電子書籍配信数を紙書籍販売数で割ったものです。
    ただし、同一タイトルとは限らないため、「紙書籍の○○%が電子化されている」という数字にはなりません。
  • 具体的には、紙ではもう販売されていないタイトルが電子書籍で販売されている場合もありますし、電子書籍用に分冊されている場合もあります。そのため、会社によっては100%を越えている場合もあります。

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