2013年1月19日土曜日

電子書籍&紙書籍 出版点数① マクロ編

 おはようございます。

 このブログでは、各ストアの比較に重点を置いて、電子書籍の配信状況を調査しています。

 そんなことをしているうちに、「出版社ごとの力の入れ方はどうなのだろう」ということが気になってきました。
 でも、それを見るためには、出版社の規模も含めて比較しなくてはいけません。それを無視して、「講談社は○万冊、××社は△百冊、××社はやる気がない」なんて言っても意味がないわけです。
 しかし、出版社の規模というのは、よくわかりません。株式を上場していない企業が多いので、売上ですら調べるのが困難だったりします。まして、それを、数十社、またはもっと多くの会社について調べるとなると…。
 そういった事情で、これまで、出版社比較を調べることは、ちょっと躊躇していました。

 そこをどうするか、いろいろ考えていたのですが、「現在、紙書籍をどれぐらい販売しているか」を調べれば、出版社の規模の目安になるのではないかと考えました。
 それなら、ネット書店で頑張って検索すれば、調べることが出来ます。

 …ということで、紙書籍の状況を確認して、電子書籍と比較してみました。
 今回は、市場全体を見て、出版社の規模による傾向について取り上げたいと思います。
 各出版社の個別の状況については、後日、「出版点数② ミクロ編」と題して書く予定です。

出版社規模と紙書籍販売数


 まず、はじめに、紙書籍の状況を確認します。
 このグラフをご覧ください。





 このグラフは、各出版社を紙書籍販売数で分類した場合の、出版社数と各社出版冊数の分布を示しています。

 この「紙書籍販売数」は、amazon.co.jpの出版社リストに載っている出版社1502社について、新品として取り扱いのある点数を調べました。
 (出版先リストのリンクをポチッと押して、左側の列で「コンディション:新品」を押したときのヒット数です)
 この結果を見ると、以下のことがわかります。
  • 5000冊以上を販売している大出版社の数は16社、全体の1.1%しかないが、出版冊数では20%を占める。
  • 1000冊未満を販売している小出版社が、数では87%を占めて圧倒的に大多数である。その出版数は36.1%である。
限られた数の大出版社が存在感を発揮する一方、小さな出版社も1/3と決して小さくない割合の紙書籍の販売を行っています。
 「日本の出版業界は中小出版社に支えられている」と言っても良いデータではないかと思います。


 なお、参考までに「amazon.co.jpで、5000冊以上を販売している大出版社」の具体的な名前は以下になります。各出版社の個別の状況については、次回の更新で述べます。

講談社,小学館,集英社,文芸社,角川書店,岩波書店,新潮社,秋田書店,文藝春秋,ポプラ社,河出書房新社,学研,ハーレクイン,幻冬舎,エンターブレイン,中央公論新社

出版社規模と電子書籍配信数


 では、これが、電子書籍ではどうなるのか。  それが、次のグラフです。



 左側のグラフは、前のグラフと同じく紙書籍販売数で分類した出版社分布です。今回は、紙書籍販売数を出版社規模の目安として使用します。
 右側のグラフは、電子書籍の配信数を出版社規模で区切ったものです。電子書籍配信数の調べ方については最後に付記します。

  • 電子書籍配信数は約6万5千冊。数では紙書籍の8%であった。
  • 紙書籍では2割程度にすぎなかった大出版社16社の販売数が、電子書籍では48%と半分近くを占めている。
  • 小出版社からの電子書籍配信は12.7%と、非常に少ない。
  • 大出版社の次に配信数が多い区分は、「紙書籍販売数1000冊~2000冊」の出版社で、約1万冊16.9%を占める。

 以上のように、1.1%に過ぎない大出版社が、電子書籍の約半数を配信しているという状況になります。
 「電子書籍化は、経営体力に余裕のある大出版社から進む」という、一般に言われていることが、数字でも確認できたことになります。
 紙書籍販売1000冊未満の出版社は電子書籍には対応できておらず、その代わりに、紙書籍販売数1000冊~2000冊のストアが目立っています。


出版社規模と電子書籍配信数・会社数分布


 この状況をもう少し詳しく見てみましょう。



 縦に紙書籍販売数、横に電子書籍配信数を取って、各区分に入る出版社数を調べました。

 電子書籍5000冊以上を配信する会社は2社しかありません。具体的には講談社(紙:約3万5千冊、電子:約1万冊)と小学館(紙:約2万5千冊、電子:約5千冊)です。
 紙書籍5000冊以上を販売する大出版社でも、1000冊未満しか電子書籍を出していない出版社が8社あります。こちらの具体的な出版社名については、後日、書く予定です。

 電子書籍未配信の出版社は996社ありました。1502社中の996社なので、2/3が未配信ということになります。
 その多くが小出版社です。紙書籍販倍数1000冊未満の出版社では「未配信:893社、配信済み:369社」と圧倒的に多数派です。一方、紙書籍販売数1000~2000冊の出版社では、「未配信:47社、配信済み:69社」と大小関係が逆転し、「未配信出版社<電子書籍配信社」の関係になっています。どうやら、紙書籍1000冊のあたりに、電子書籍化に対する閾値があるようです。


出版社規模と電子書籍配信数・配信状況


 続いて、これらの出版社が、どれだけの電子書籍を配信しているのかを見ます。
 各区分の出版社の電子書籍販売数を表にしました。


 配信数を見ているので、一番左の列、未配信の会社の配信数は、すべてゼロになります。
 右下マスに含まれる2社、講談社・小学館の2社で約1万5千冊、これが全体の23%を占めます。この2社を含め、紙出版5000冊以上の会社16社の合計で48%というのは、先ほどのグラフで見たとおりです。

 電子書籍配信数が次に多いのが、紙書籍を1000冊~2000冊出している中堅出版社。先ほど述べたように、この区分では、半分以上の出版社が配信を開始しており、ほとんどが配信していない小出版社(紙書籍1000冊未満)との差が感じられます。
 1話単位で多数の配信数になっているリブレ出版、笠倉出版社などもここに含まれますが、それ以外の出版社も多く含まれています。
(リブレ出版・笠倉出版社についてはhontoのみで8000~9000冊(?)を配信しており、平均では1000~2000冊の配信数として扱っています)。

 具体的に、この区分に含まれる出版社で、電子書籍配信をある程度行っている出版社は以下の通りです(電子書籍配信100冊以上)。 
 リブレ出版、笠倉出版社、ぶんか社、少年画報社、オークラ出版、扶桑社、実業之日本社、大洋図書、イースト・プレス、芳文社、NHK出版、マッグガーデン、ぎょうせい、リイド社、フランス書院、宙出版、ワニブックス、東京創元社、三栄書房、マガジンハウス、三笠書房

 電子書籍では、小出版社が目立たない一方、もう少し大きい出版社が、存在感を出してきていると言えそうです。
 もし、今後、電子書籍が市場の主流になった場合、1000冊あたりを境に、それより下の小出版社は危ないのかも知れません。また、その上のカテゴリーでも、電子書籍を出しているところと出していないところで明暗が分かれるかも知れません。
 あくまでも、「もし」の話ですが。



出版社規模と電子書籍配信数・コンテンツ数分布


 最後に、上と同じ表で、紙書籍販売数の分布を見てみます。


 この表で、何が見たかったかというと、「電子書籍にできるコンテンツをどれだけ持っているのか」という点です。

 これまで見てきたように、「紙書籍は小出版社もある程度の割合を占めている」「でも、電子書籍は違う」という状況です。そのため、「小出版社(紙書籍1000冊未満)・未配信」に約18万冊という非常に多くの紙書籍があることがわかります。
 小出版社だけに、電子書籍化に振り向けるリソースがなく、多くの書籍が電子書籍化されないままになっています。

 将来の電子書籍配信という観点では、この部分が、「埋蔵金」と言えるわけですが、「埋蔵金」というのは、掘り出すのが難しいから「埋蔵金」なわけで…。
 電子書籍ストアや電子書籍取次が、1000社という多くの出版社から電子書籍を掘り出そうというのは非常に難しい話です。また、1社あたりの所有タイトルが少ないため、労力に対して成果が少なくなります。さらに、もっとも大きな、電子書籍化費用負担の問題もあります。

 その点、それを国の税金でやろうという(株)出版デジタル機構コンテンツ緊急電子化事業(略称:緊デジ)の取り組みの方向性は非常に理にかなっていると思います。
 復興予算の流用など問題点も指摘されましたが、出版文化と電子書籍の発展という意味では、有意義な取り組みではないかと思います。
 実際に、理念通りに、うまく行っているのかは、今後、じっくりと見ていくべきだと思います。

 小出版社の次に狙えそうな場所としては、紙書籍5000冊以上を出しながら、あまり電子書籍化していない出版社です。
 紙書籍5000冊以上、電子書籍1000冊未満という「電子書籍化に積極的ではない大出版社」8出版社、約6万冊は、非常に魅力的な電子書籍化候補に見えます。
 このあたりの話は、次回、書こうと思います。

まとめ

  • 紙書籍は、販売数の1/3を小出版社(販売数1000冊未満)が占めており、日本の出版界は中小出版社に支えられている現状が改めて明らかになった。
  • その一方、その小出版社による電子書籍配信は12.7%と非常に少ない。
  • その上の区分(紙書籍販売数1000~2000冊)の出版社が、ある程度の存在感を示している。
  • 基本的に、現在の電子書籍は大出版社に支えられていると言え、今後、中小出版社の出版物をどう掘り起こすかが課題と言える。
  • ろくに配信していない大出版社のコンテンツもまだまだありそう。そこについては、次回。
以上。

付記:調査方法

今回用いた「電子書籍配信数」の調査方法は以下の通りです。
  • 上の調査で用いたamazon.co.jpで紙書籍を販売している出版社1502社の電子書籍ストアでの配信数を求め、平均を求めました。
  • 調査日は2013年1月2日です。
  • 平均を求めるために用いたストアとその1502社配信数は以下の通りです。
    • honto
      • 121326冊
        (1話単位での配信が多いのに注意)
    • Reader Store
      • 66331冊
    • GALAPAGOS STORE
      • 57515冊
    • 紀伊國屋書店
      • 54395冊
    • ebookjapan
      • 70733冊
    • Kindle
      • 50136冊
    • Kobo
      • 30986冊
  • 平均に用いなかったストアと、その理由は以下の通りです。
    • Bookwalker
      • 角川グループ専用で出版社に偏りがあるため。
    • Booklive!
      • 検索結果がタイトル数のみで表示され、各出版社の配信冊数がわからないため。
  • 出版社1502社について、電子書籍ストア配信数に関連する情報は以下の通りです
    • honto!でBLなどの作品を1話単位で配信しているリブレ出版・笠倉出版などが含まれています。
    • Booklive!、Koboで楽譜を配信しているアディインターナショナル、株式会社エクシング、オブ・インターラクティブの3社は含まれていません。
    • Koboで古文書を配信している長野電波技術研究所は含まれていません。

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