2013年1月11日金曜日

電子書籍ストア比較 -ランキングに見るユーザー層-

 こんにちは。
 今年に入って2度目の更新です。

 年が明けて、心機一転しているところ申し訳ありませんが、去年を振り返って、去年のデータで遊んでみました。
 来年のことを言うと鬼が笑うと言いますが、去年のことを言うと何が笑うんでしょうか。


 各電子書籍ストアでは、1年間の書籍売り上げランキングを出しています。
 今回は、その売上ランキングを比較してみようと思います。


 そもそものきっかけは、Booklive!のランキング発表時のプレスリリース(リンク先PDF)に以下のような文章があったためです。
上位10 タイトルの中、ライトノベルが5 作品を占めており、近年のライトノベル人気と、現在のメインユーザであるスマートフォンユーザとのマッチングが顕著に現れました。

 Booklive!は、ライトノベルを読むユーザーが多いんだそうです。
 それなら、他ストアのランキングを見れば、他ストアのユーザー傾向もわかるんじゃないだろうか。…ということで、各ストアのランキングを比較してみました。

一般書

ということで、まずは、コミック以外(以下「一般書」)のランキングから。






 「コミック以外」のランキングがないストアについては、全体ランキングからコミックを除いて作成しました。Kindleが、ベスト7までしかないのはそのためです。また、上下巻などが別の扱いになっているストアについては、上の順位のものだけを取りました。それによって、正しい順位と異なっているかも知れません。
 それぞれの本について、私の独断と偏見で分類して、色をつけました。異論は…できればやめてください。

 さらに、もう少し別の観点からも見てみます。

 作品別に、どのストアにランクインしたか書き出してみます。2ストア以上にランクインした作品について、ランクインストア数、平均順位の順に並べてみました。




上の2つの表から読み取れることをつらつらと…
  • ドラマ化・映画化などで話題になった小説が、多くのストアで上位にランクインしています。
    具体的には、「のぼうの城」「悪の教典」「天地明察」は過半数のストアでランクインしており、しかも、上位に入っています。
  • ここから伺えるのは、基本的には、どのストアも同じようなユーザー層で、極端に偏ってはいないようです。
  • ただし、ebookjapanとkindleは、少し様子が違います。ebookjapanは、一般書に参入したのが最近、Kindleも参入して数ヶ月ですので、そのへんは、まだ様子見でしょう。

  • Booklive!は、同社自身がプレスリリースで言っていたとおり、ラノベ・アニメ化作品が半数以上を占めています。
    また、hontoも同様の傾向があります。
    この2ストアはユーザー層が似通っていると想像できます。
    Booklive!がプレスリリースで言っていたように、スマートフォンユーザーとライトノベルの親和性が高いため、専用端末を持たない(または最近まで持たなかった)2ストアではこういった傾向が出たと考えられます。
  • Reader Storeはドラマ化した小説が多くランクインしています。
    また、表の上の方、つまり、ランクインストア数が多い作品が多数ランクインしており、電子書籍ストアの最大公約数的な形でユーザーが集まっているように見受けられます。
  • 紀伊國屋も、Sony Readerが使えるので、Reader Storeに近いといえば近いですが、ビジネス書が心持ち多めなのが特徴です。
  • Koboも、傾向的にはReader Store・紀伊國屋に近いものがあります。どちらも、電子ペーパーの専用端末があるストアなので、ユーザー層も近いと考えられます。
    こちらも、Reader Storeと比べると、ビジネス書が多めの傾向があります。
  • GALAPAGOS STOREは、傾向としてはReader Storeや紀伊國屋に近いのですが、他のストアでは入ってこないタイトルが入ってきています。
    「人生がときめく片付けの魔法」「実年齢より20歳若返る!生活術」というタイトルを見ると、女性ユーザーが多いのかも知れません。
    理由として考えられるのは、シャープのスマートフォンを入り口にして、幅広いユーザーを取り込んでいる可能性…ぐらいでしょうか。
  • ebookjapanは、個性的な作品が並んでいますが、これは、一般書・文芸書の本格的な配信が今年11月からだったため、それまでに配信されていた作品に集中したものだと思われます。
    今年は、様子見をすべきだと思いますが、すこし、年齢層が高めのように見受けられます。
  • Kindleは、オープンして数ヶ月だったため、今年は、まだ様子見ではありますが、個性的な顔ぶれが並んでいます。
 以上の結果を見ると、スマートフォンがメインのhonto、Booklive!と、電子ペーパー端末のあるReader Store、紀伊國屋書店、Koboでは、ユーザー層が異なるようです。おそらく、端末を持つストアの方が、ユーザーの年齢層が高めなのではないでしょうか。

 このようにはっきりと傾向が分かれると、現状、ユーザーの年齢層が低めのBooklive!が、新しいユーザー層を開拓するために、専用端末Lideoを発売し、かつ、シニア層を取り込みやすい仕様にしたのは、戦略的には非常によくわかります。専用端末の発売によって、多かれ少なかれ、これまでと違ったユーザー層が取り込めるのは間違いないのではないかと思います。
 今後、同じ立場のhontoがどうするのか、また、逆の立場の紀伊國屋やReaderStoreが、ユーザーをどうやって開拓していくのかは注目したいと思います。

コミック

つづいて、コミックのランキングです。



 巻別にランクインしていたものは、一番上位の順位にまとめました。その結果、紀伊國屋がすごいことになっています。30位までの順位が、4タイトルだけになってしまいました。
 こちらも、独断と偏見で色をつけました。基本的には掲載誌ベースで色をつけたつもりですが、まとめてしまったものもあります。

 作品別でまとめました。


 コミックは、一般書のランキングほどは個性が出ていないように見えます。

  • 全体の傾向として、女性向け作品があまりランクインしていません。
    複数ストアにランクインした作品で、明確に女性向けと言えるのは「ヘルタースケルター」「好きっていいなよ。」の2作品ぐらいでしょうか。
    どのストアも男性ユーザーが多いことが伺えます。
  • 個別のタイトルでは「宇宙兄弟」「ジョジョの奇妙な冒険」「ONE PIECE」「テルマエ・ロマエ」が非常に強いです。
    「宇宙兄弟」については、紙書籍との同時発売など講談社の戦略が大きく効いていると思います。他の作品は…ジャンプってやっぱりすごいですね。

  • 先ほどは傾向が似ていたhontoとBooklive!は、コミックラインキングでは、全体の傾向は似ていますが、細かい点では、少し傾向が違うようです。
    hontoの方が、少し、女性向け作品に向いているような気がします。
  • Reader Storeで、多くのストアと共通のものがランクインする傾向は、こちらでも出ています。
    「ユーザーの特徴がない」のがReader Storeの特徴かも知れません。
  • GALAPAGOS STOREは、先ほどのランキングでは女性ユーザーが多いかも知れないと書きましたが、コミックではその傾向はあまり見えません。
  • ebookjapanでは他のストアと違うものが多く入っています。
    ランクインした作品を見ると、他のストアより、少し年齢層が高めに見えます。
    小学館の配信が他ストアより多いのが特徴ですが、その差はそれほど出ていないように見えます。
  • Kindleは、こちらでも個性的です。
    ただ、これも、数ヶ月の結果なので、配信が遅かった作品がランクインしていないだけかも知れません。

まとめ

 以上の結果から、独断と偏見で、ユーザーの傾向を図にしてみました。


  • Booklive!の「スマートフォンユーザーが多いため、ライトノベルに偏る」という傾向はhontoでも見えた。
  • 一般書については、専用端末があるストアとないストアで傾向の差が見え、ユーザー層の違いがあることが確認できた。
  • コミックについては、一般書ほど明確な差は生まれなかったが、一般書で見えた傾向を追認することが出来た。
  • ReaderStpreは最大公約数的、GALAPAGOS STOREは女性が多め、ebookjapanは年齢層が高め。
以上。

付記

ランキングの出典URLと、条件を統一するために加えた操作については以下の通りです。

4 件のコメント:

  1. コミックに関して言えば、特に「どのレーベル/どの作品が配信されているか」というのが大きくきいてくるような気がします。たとえば花とゆめコミックスを抱える白泉社は、GALAPAGOSでは他のストアより点数が多めですし。

    返信削除
  2. >>luk3さん
    コメントありがとうございます。
    確かに、その通りですね。そのへんでユーザーの偏りやランキングの偏りが出てきてるのかな…と。
    それ以外にも、セールの影響なんかも確実に出ますよね(あ、本文中に書き忘れてた(汗))。
    まぁ、そのへんの相互作用も含めて、「ストアの特徴」が出てると、おもしろいかな…と思った次第。

    返信削除
  3. 大学で出版研究ゼミに所属しています。先生には、常々、サービスにはポジショニング戦略があってそこから入ると言われているのでとても参考になりました。私は映像配信サービスの有料契約者ですが、料金体系(個別か月額か)決済方法(クレジットだけか、銀行振込 webmoney対応可)、配信ジャンルで決めました。プラス端末でサービスを選ぶのは電子書籍ならではだと思います。

    3つ質問があります。(映像 電子書籍 音楽配信に共通するかと思います。)
    1、主流となる料金体系はどっちなのか?
    2、電子書籍でもモーニングが月500円、ジャンプブックストアが個別課金であります。今後は出版社 レーベル 配給が独自に作品を配信する形式も増えてくるのか?
    3、今は乱立していますが、最終的に配信ストアは淘汰されていくのか否か。

    わかる範囲で構いません。
    よろしくお願いします。
    失礼します。

    返信削除
  4. コメントありがとうございます。
    趣味で電子書籍界隈をウォッチしてるだけの者ですが、わかる範囲&個人の独断と偏見に基づいた意見で。

    1.個別と月額どちらが主流か
    電子書籍の場合、月額のサービスはそれほど多くありません。
    yomel.jpやブックパスなどがありますが、どちらも個別購入型のストアに比べるとコンテンツ数が著しく劣ります。
    (個別購入型ストアが10万冊を越えるのに対して、月額型は数千冊)
    そのため、個別購入型が主流ではないかと思います。
    http://pc.yomel.jp/
    http://www.au.kddi.com/content/bookpass/

    今後については、漫画家・Jコミ代表の赤松健氏のように定額型が主流になるという意見の方もいます。
    (最近、他の方のそういった意見も読んだ気がしますが失念しました)
    http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130621/486742/

    ただ、個人的には、本と映像&音楽では事情が違うので、定額制には行かないのではないかと思っています。
    人によって読む量(というか金額)の差が大きい、「ながら視聴」はできても「ながら読書」はできないので、コンテンツを消化しにくい…などなど。
    端的に言えば「電子書籍 月額制の適正価格がいくらか」という落し所が、僕には想像がつきません。
    なので、定額制は難しいと思っています。

    2.出版社 レーベルの独自配信。
     確かに、Dモーニングやジャンプなど、独自配信のニュースは多いです。
     その一方、角川グループ専属ストアだったBookwalkerが、グループ外の出版社に手を広げたりもしています。

     なので、今後、どうなっていくかは想像するしかないのですが。
     私の想像では、今後、数年間、電子書籍が盛り上がる時期は、出版社・レーベルの独自配信は増えると思います。
     その後、落ち着く時期になれば、徐々に、統廃合や他ストアへの配信で、減っていくのではないかと。
     出版社やレーベル単位での配信は、システム構築・維持などのオーバーヘッドが大きいので、そうせざる得なくなるのではないかと思います。

    3.ストアの淘汰
     現状、電子書籍のストアの数は想像以上に多いです。
     たとえば、講談社が配信しているストアだけでも30以上あります。
     http://densho.kodansha.co.jp/shop-list.html

     そのような状況なので、おそらく、数は減っていくと思います。
     特に、現在、Kindleという一強がいるので、なんらかの特徴で差別化して存在感を示せないストアはつらいと思います。

     淘汰が、どのような形で起こるのかはわかりません。
     合併など穏当な形で行われるのか、サービス停止があるのか。


    以上です。
    参考になりましたら幸いです。

    返信削除