2012年12月29日土曜日

電子書籍 各ストア 冊数調査 番外編 -「未捕捉分」(または水増し分?)はなにか-

 こんにちは。
 2012年も、あと、残すところ数日となりました。

 さて、このブログでは、「主要出版社21社の配信数」を、「各ストアの配信数」の目安としてとらえて、調査しています。
 でも、「本当に、それが目安になっているのか」という点は、一度、確認をしなければいけません。

 それと同時に、「各ストアが、公表冊数にどのようなものを含めているのか」。もっと有り体に言えば「『水増し』はないのか」という点も、非常に興味をそそられる点です。

 今回は、それを見てみました。

 下のグラフは、各ストアの「全体冊数」と、このブログで調べている「主要21出版社配信数」のグラフです。
 ストアによっては全体の冊数を公表していないものもありますので、そこについては、私が独自に調べました。調査方法の詳細は最後に付記します。





 全体冊数については、濃い青の棒はストアトップページなどで公表されている「公称冊数」と呼べるもの、薄い棒は私が調べたものです。

捕捉率

さて。
 この2つの数字を使い、「主要21出版社配信数」÷「全体冊数」を計算すると、私の調査での「捕捉率」が出てきます。
 「捕捉率」が低い場合、このブログが対象にしている「主要出版社からの配信」以外のものが多いということになります。ひょっとしたら、「中小の出版社からの配信」に力を入れて集めているのかも知れませんし、ひょっとしたら、「水増し」なのかも知れません。

 まず、全体像を把握するために、各ストアを、「捕捉率」の低い順番で並べてみました。

補足率公称冊数出版社21社
Kobo19%110,619 20,812
BookLive(タイトル数)25%79,559 19,806
honto30%184,742 54,669
Kindle34%85,467 29,417
honto(タイトル数)37%54,027 20,176
ebookjapan47%82,104 38,704
Bookwalker52%14,313 7,506
Reader Store55%79,662 44,159
紀伊國屋書店58%67,598 39,532
GALAPAGOS STORE60%68,401 40,993

 捕捉率が最も低い-水増し(ないしはそれに類するもの)が最も多い-のは、Koboでした。これは、大方の予想通りだと思います。
 その次は、Booklive!、honto、Kindleと続きます。ここまでが捕捉率1/3程度。
 ebookjapanは50%弱、Bookwalker、Reader Store、紀伊國屋、GALAPAGOS STOREあたりは、だいたい50~60%あたりに固まっています。

 この結果から、以下のように考えました。

  • 捕捉率の高いBookwalker、Reader Store、紀伊國屋、GALAPAGOS STOREの5ストアは、「一般書店に並んでいる本」が大半を占めていると考えられる。
  • 逆に、捕捉率の低い、Kobo、Booklive!、honto、Kindleは、「一般の書店に並んでいる本」以外の「何か」が多く含まれているのではないかと考えられる。

 では、その未捕捉分がなんなのか? …というのを、いくつかのストアについて、次から見ていきます。

Kindle


 実は、今回、Kindleについては、手も足も出ませんでした。
 Kindleは、比較的、捕捉率が低く、「書店に並んでいる本」以外のものが多く配信されていると想像できるのですが、ここに何が含まれているのか、完全にはわかりません。
 それは、Kindleは、配信出版社の一覧を公開していないため、他ストアのように、そこから追いかけることが不可能だったためです。

 一つわかっているのは、Kindleには、約17,600冊の「Kindle 無料本」が含まれています。このことは、日本での展開当初から「うち1万冊は無料本」として公表されています。
 ただ、これを引いても、捕捉率は43%で、依然、低いままです。
 他のストア同等の55%程度の捕捉率にしようと思うと、さらに15,000冊ほど引かなくてはいけません。この冊数が、未知の「未捕捉分」です。
 Kindleには、KDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)という自費出版のシステムがあり、これが最有力の候補となりますが、本当に、それが15,000冊なのかは確認できませんでした。

Reader Store


 気を取り直して。
 まず、捕捉率の比較的高い4ストアの一例としてReader Storeの主な配信内容を見てみます。
 今回は、各ストア、全配信数の1%、または1000冊(タイトル数の場合は300タイトル)までの出版社をリストに書き出しました。

 赤い色で示した出版社が、私がこのブログで調査している「主要21出版社」です。
 それ以外の色が、今回のエントリーのテーマである「未捕捉分」となります。

 このリストでは、全配信数の7割がカバーされています。その中で、既存出版社が大半であることから、Reader Storeでは、配信のほとんどが、既存出版社の出版物であることがわかります。
 それ以外のものとしては、青空文庫が約2000冊、官能小説「おとなの本屋さん」が約900冊、電子出版専業のグーテンベルク21が約800冊などが含まれます。
 なお、「おとなの本屋さん」については、セーフサーチをオンにしていれば検索にはヒットしません。(今回の調査に用いた出版社一覧からの検索ではセーフサーチはかからないようです)

 私が「主要21出版社」に含まなかった既存出版社もいくつかあります。ハーレクイン、朝日新聞出版、扶桑社がそれにあたります。
 朝日新聞出版の配信数が多いのは、Reader Storeでは、「週刊朝日」「AERA」の雑誌記事を配信しているためです。
 ちなみに、扶桑社を調査対象に入れていないのは配信冊数が少ないから(調査開始時に900冊を目安にしましたが、それを越える配信をしているストアがありませんでした)です。また、朝日新聞出版社は、上記理由でReader Storeでの冊数が過大に出てしまうためです。ハーレクインは…お察しください。

 今回は、Reader Storeを調べましたが、GALAPAGOS STORE、紀伊國屋書店、ebookjapanなども、既存出版社の割合としては同程度だと考えられます。

Kobo


 つづいて、捕捉率の一番低かったKoboを見てみましょう。
 Koboについては、以前のエントリーや、前回のKoboの大量投入について確認したエントリーでも見ています。

 出典は「[帰ってきた] koboストアの品揃えを見守るページ」さんの版元一覧ですので、詳しい結果は、そちらをご覧ください。

 赤い色で塗った配信元があまりありません。
 もう少し下の順位まで見ていくとそこそこ出てきますが、全体に数は少なめです。

 アディインターナショナル、エクシング、オブ・インターラクティブといった会社は楽譜を配信しています。3社あわせて約20,000冊、24.6%を占めます。
 青空文庫の配信数が10,900冊です。青空文庫のトップページによれば、現在の作品数は11,651作品とのことなので、ほぼ全作品をそのまま配信していることになります。
 これらは、以前、「水増し」として話題になりました。

 長野電波技術研究所は古文書の配信をしています。これを「水増し」と言っていいかは悩むところです。
 グループゼロは、成人向けコミック・BL作品の配信が主のようです。同社HPに「松文館、道出版の書籍の電子化事業をおこなっております」とあるので、この2社のものだと思われます。
 (「BL」が何かわからない人は、おうちのかたに聞いてググってみてください)
 「Internet Archive」は…なんだかわかりません。以下のような感じです。なぜかタイトルがローマ字綴り表記の上、「There is no description available.」となってます。これを見て買う人がいるのか疑問です。


 ちなみに、同じく「水増し」として話題になっていたWikipediaの配信数は500冊ですので、1000冊以上をリストアップした今回のリストには含まれませんでした。冊数・内容ともに、上のInternet Archiveに比べたら、かわいいもんです。

honto

 さて。
 ここから先が難しくなっていきます。
 「主要21出版社合計」でも「全冊数」でもトップでありながら、捕捉率が29%と比較的低いhontoです。
 左側が冊数で、右側がタイトル数です。
 たとえば、「こち亀」の1~183巻があったとき、冊数では183冊と数え、タイトル数では1タイトルと数えます。hontoは冊数とタイトル数の両方を表示できるので、両方を併記してあります。
 なお、他ストアの多くは冊数のみ、次に出てくるBooklive!はタイトル数のみの表示です。


 講談社、小学館、角川書店…と見慣れた名前に混じって、リブレ出版、笠倉出版といった名前が並び、相当上位に食い込んでいます。
 これは、BL、TL、レディースコミックなどの出版社のようです。詳しく知りたい方は、hontoで検索してみてください。
 (TLは「ティーンズラブ」の略で、レディースコミックより低年齢層を対象/題材にしたものだそうです)
 なお、hontoでは、セーフサーチはデフオルトでオンになっています。今回の検索もその状態で行いました。

 このあたり、「一般書店に並んでいる本」という定義から、まったく外れるわけでもないのですが、すこし、一般書店と比率が違う…という印象があります。

 また、これらの配信元の作品には「一冊あたりの価格が低いものが多い」という特徴があります。一冊あたり40円、50円といった金額で、ほぼ「1話単位」で売られているとおぼしき商品がかなりあります。
 これを、一般的な書籍と同列に「一冊」として扱うのは、すこし、フェアではない印象があります。

 ただ、こういった「少ない分量での配信」という形態も、これまでの出版の姿にとらわれない多様な配信の姿として、電子書籍の有効な活用事例の一つではないかと思います。
 ユーザーとしても、気楽に買いやすくなるというメリットがあります。

 だからこそ、「電子出版における配信冊数」の定義は非常に難しいと思います。
 このブログで実施している「開き直って『主要出版社の配信数』で評価する」という方法も、いつまで通用する方法か、わかりません。

Booklive!


 最後に、honto同様、冊数が多く、捕捉率の低いBooklive!です。
 ここはタイトル数だけの調査になります。

 こちらは、hontoと違い、通常の既存出版社の割合が高いようです。
 赤い色が付いていないものも、「既存出版社のうち、私が21社に選ばなかったもの」がほとんどです。
 既存出版社、それぞれの配信数も、hontoと同等で、十分な配信が行われているようです。

 その中でも異彩を放つのが、アディインターナショナル、オブ・インターラクティブです。Koboでお馴染み、楽譜の配信です。また、青空文庫も多く配信されています。
 この配信は、Koboの「水増し」が問題になる前から行われていたようです。

 ということで、この結果を見ると、Koboの「水増し(と非難されたもの)」は、Booklive!の真似をしたのではないかと思えてきます。
 ただ、Booklive!では、既存出版社の出版物が多数配信されているので、「プラスアルファの個性」と捉えれば良いのではないかと思います。もちろん、他ストアと比較するときは注意が必要ですが。

まとめ

  • ebookjapan、Reader Store、紀伊國屋書店、GALAPAGOS STORE、Bookwalkerは、捕捉率が高く、「一般の書店に並んでる本」で、配信のほとんどが占められている。
  • Kindleは、それ以外の配信があるが、内容は不明。無料分17,600冊+未知15,000冊(KDP?)と推測される。
  • Koboは、楽譜や青空文庫や古文書など様々なものが配信されている。他に比べると率が非常に高い。
  • hontoはBLなどの1話単位での配信が、Booklive!は楽譜などが配信されて、全冊数を押し上げている。ただし、一般の本も多い上でのことなので、一概に非難することは出来ない。
  • 各社、青空文庫の配信数はばらついているが、これは、最初に配信した時期から増えていないためではないかと思われる。今後、青空文庫が増えるかは注視すべき。著作権消滅まであと数日の吉川英治とか。
以上。

付記:調査方法

「全冊数」の調査は以下のように行った。
  • hontoについては、「出版社別検索」から、各出版社の冊数/タイトル数を調べ、その合計を用いた。
  • Reader Storeについては、スマートフォン向けサイトに表示されている冊数を用いた。
  • GALAPAGS STOREについては、詳細検索から「書籍」「コミック」「雑誌」で検索し、それぞれのヒット数の和を用いた。
  • 紀伊國屋書店については、詳細検索で空欄のまま検索したヒット数を用いた。
  • ebookjapanについては、トップページにある数字を用いた。
  • Kindleについては、「Kindle本」の冊数から「Kindle洋書」の冊数を引いた。
  • Koboについては、トップページにある数字を用いた。
  • Bookwalkerについては、「配信出版社一覧」から、各出版社の配信数を調べ、その合計を用いた。
  • Booklive!については、トップページのタイトル数を用いた。
各出版社の冊数については、基本的に、各ストアの出版社一覧から検索している。
なお、セーフサーチについては、デフォルトのままで、基本的にはオンになっている。

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