このエントリーでは、なぜ、このようなことを始めたのか。その理由の一つを説明したいと思います。
まず、はじめに、こちらのグラフをご覧ください。
このグラフは、ネット上のニュースサイトに載っていた、各ストアの配信冊数です。
ITmediaの「BookLive!の電子書籍リーダー「BookLive! Reader Lideo」をいち早く使ってみた」という記事と、impressの「6インチ電子ペーパー搭載の電子書籍端末、どれを選ぶ? 4社・4機種まとめ」という記事で、どちらも、2012年12月10日に配信された記事です。
両記事には、各電子書籍ストアの比較表が載っています。それをグラフにしたのが上の図です。
どちらも、同じ4ストアの書籍数を比較しているのですが、冊数に差があります。
ITmediaの記事では、Booklive! > Kindle = Reader Store > Kobo。…という順番になっています。
impressの記事(無料除く)では、Booklive! > Reader Store > Kobo > Kindle。
Bookliveが1位で、2位グループにReader Storeがいるのは同じですが、KindleとKoboの順位が大きく異なります。
なぜ、このようなことが起きるのか。
一つには、ITmediaの記事では、「楽譜除く」とされていることです。
また、impressでは無料と有料を区別していますが、ITmediaでは区別していません。
そのため、両記事で、各ストアの配信数が異なって見えています。
では、「実際の配信数」をどのように見たら良いのか、Koboを例にして考えてみます。
下のグラフは、Koboで配信されている出版社数の内訳です(「koboストアの品揃えを見守るページ」のデータを使わせていただきました)。
Koboの品揃えは、非常に個性的で、アディインターナショナル・青空文庫・パブーで半数近くを占めます。
アディインターナショナルは、Koboでは楽譜を80円/1曲のような形で配信している会社、青空文庫は著作権切れの文学作品を配信しているサイト、パブーは自費出版のサイトです。
Koboが日本に参入した当初、青空文庫や楽譜が、「水増し」として、ちょっとした騒動になったことを記憶されている方も多いと思います。
上であげた記事のうち、ITmediaの記事では、このうち、楽譜を「水増し」分と見て、引いた数字を掲載しています。また、impressの記事では、青空文庫等の無料分を別扱いとして扱っています。
ここをどう扱うかは、各著者の考え方の差が出ています。
この問題は、非常に難しい問題です。
青空文庫の作品を電子ペーパ端末で読もうと思うと、PC上での変換が必要です。それが、ストアにあれば、直にダウンロードできるため、ユーザにとって非常に利便性が高まります。
また、パブーなどの自費出版でも、質の高い作品は出ていますし、音楽を演奏する方には、楽譜も有用かも知れません 。
さらに、ここでは、Koboを例に挙げましたが、他のストアでも、多かれ少なかれ同じような状況があります。
Kindleも、Kindle Direct Publishingという自費出版のシステムも持っており、パブーとの連携も発表しました。
また、Booklive!は、楽譜の配信をKindleに先駆けて行っています。
Kindle、Reader Storeなど、青空文庫を配信しているストアも多数あります。
そう考えると、一個一個のストア、一個一個の事例について、「水増しかどうか」という判断をするのは、非常に困難で、さらに、調査者の価値観が入り込むという問題があります。
つまり、「電子書籍ストアの実際の配信数」というものは、まったく定義できないこと言うことになります。
そこで、原点に戻って、「電子書籍ストアに求められる商品は何か」を考えます。
私の場合、それは「普通の書店に並んでいる本」、すなわち「既存出版社から出版されている本」です。
そこで、いっそ、開き直って、「既存出版社からの本」を見ようと考えました。
…と言っても、すべての既存出版社からの冊数を調べるのは困難です。
そのために、比較的、配信数の多い出版社を探して、それを積み上げました。
もちろん、それでは、すべての既存出版社の合計にはなりません。しかし、配信数の少ない残りの出版社を足したとしても、合計への影響はそれほど大きくないため、「配信数の多い出版社の合計」は、「各ストアの既存出版社からの配信数」の目安としては使えると考えました。
具体的には、以下の出版社の配信数を調査しています。いずれも、調査開始当時、約1000冊以上の配信をしていた出版社です。
講談社,小学館,徳間書店,角川書店,秋田書店,光文社,集英社,双葉社,ソフトバンククリエイティブ,学研,中央公論新社,PHP研究所,ゴマブックス,新潮社,富士見書房,メディアファクトリー,アスキー・メディアワークス,文藝春秋,祥伝社,白泉社,NHK出版
その結果と上記ネット記事の比較を下に示しました。
Booklive!は冊数での検索が出来ないので、調査できませんでした。
Reader Storeでは、全体の6割ほどがこの方法で補足できることがわかります。
この結果を見ると、公表冊数では大きな差が出ない3ストアで、「既存出版社からの出版点数」では大きな差があることがわかります。
この数が実感に合うかは、各自ご判断いただきたいですが、私はある程度合っていると感じています。
もちろん、今でも、Kindle Direct Publishingやパブーから質の高い作品が生まれています。
このままいけば、近い将来、「既存出版社から本を引っ張ってくる能力」ではなく、「自力で作者から作品を引っ張ってくる能力」が、「電子書籍ストアの実力」になる時代も来るかも知れません。
でも、とりあえず、現段階では、既存出版社からの本を求めるユーザーが多いと仮定して、それを調べようと考えたのが、この調査です。
個人的な興味で始めた調査ですが、 何か役に立てば幸いです。
以上。
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